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幼くして父を亡くし、母の苦労を少しでも軽くしてあげたいと思ってアルバイトに励んだこと、人との出逢いによって歯科材料販売という天職に就けたこと、I江という生涯の伴侶に出逢い、力を合わせて会社を成長させていくことができたこと、その間にも、多くの素晴らしい人との出逢いがあったこと等……そのほかにも書きたいことは山のようにあった気がするのだが、そのほんの一部しか書けなかったことは、限られた紙幅では致し方ないのかもしれない。 最近、私か幸運だと思っているのは、さっきから繰り返し書いているように、船に乗るという喜びに出逢ったことである。
私にとっては、還暦近くになって訪れた人生の大きな転機だったと言っていい。 日常を離れた別天地に心を遊ばせることの素晴らしさもさること船で出逢う人との交流の楽しさ、その人からいただくビジネスや生き方に対しての的確なアドバイス、そのどれもこれもが、これまで私か体験しなかった未知の創造性にあふれているように感じられるのである。

大げさだと思われるかもしれないが、実際、船に乗るようになって、私自身が大きく変わったらしいのである。 妻や周りの連中が何度も言っていることだから、間違いないのだろう。
昔に比べて、私が人間的に「円くなった」というのだ。 私も、船上での多くの人との出逢いによって、人の気持ちを思いやることの大切さを学んだような気がしていることは確かである。
もちろん、相変わらず仕事の上では「厳しい」社長なのだが、それでも、何もかも自分の思い通りでなければ気が済まないという考えから、多少は社員の気持ちを優先してあげようという方向に変わったかな……とは思っている。 こうしたことも、すべては船に乗るようになったことから始まったのであり、その意味で、船の体験は、私自身の人間性までも変えさせる不思議な魅力があったのである。
優れた小説や映画などに接することで、ひとりの人間が自分の人生観を大きく変えていくということは、よくある話だろう。 だとすれば、私にとっては、船に乗ることが、まさにそれに当たっていたのではないだろうか。
繰り返すが、還暦近くになって船という大きな喜びと出逢えたことは、私の人生にとって、最高の幸運のひとつだった。 だが、なぜ私は、自分の人生において、これほどまでに幸運に恵まれることができたのだろう……考えると、ひとつには、前にも書いたが、母が昔、「いいお友だちと遊びなさい」と言ってくれたこと、もうひとつが、ご先祖さまを大事にして毎日を生活するように心がけてきたことが、大きな原因だったように思うのだ。

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